"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
採るか、撮るか [探虫行]
7月に訪れた虫の谷へ再び。
前回は予定を変更して2日連続でアタックし、収獲としては満足して帰ってきたのですが。
口惜しかったわけでもなく、未練がぬぐえなかったわけでもなく、ただ気持ちが向かっていました。
再訪の一番大きなモチベーションは、この時期ではのターゲットがあること。
その子に出会うことにチャレンジすることにしました。
それはこのチョウチョ。
この写真はもう7年も前のだということに気が付き、あまりのご無沙汰ぶりも動機になったと合点。
7年前とはフィールドが違うのですが、果たして結果はいかに。
今回はベニシジミ(春型)号で一人旅。
8月25日の朝、出発しようとしたら、いきなりエンジンストール。
セルスタートがふんづまることが時々あったのですが、エンジン始動後にストールしたのははじめて。
これでは遠出するには心配なので、急きょかかりつけのバイクショップへ寄ることにしました。
まだ開店前でしたが店長がいて、さっそく点検。今までの症状も伝えていたので、何かなぁと思案。
リレー(3つも使っているらしい)ならセローと共通だから交換できるとサイドカバーをはずし・・
結果的には、単なるバッテリー接点の問題でした。
ついでにチェーンのテンションとタイヤの空気圧を調整してもらってコンディションは万全に。
出発は11時になってしまいましたが、上りは日曜ということもあって混雑もなく、ずっと下道で都心をするりと横断。
調布から中央道に乗るとさすがに下りは多少混雑していましたが、渋滞というほどでもなく。
相変わらず肩の調子が万全でないのでゆっくり目に走ろうと思っていたので丁度いいペース。
甲府の双葉SAで遅めのお昼(富士の雲海ラーメン)を食べて、一気に松本まで。
一日目は移動日なので、前回寄り道した公園を再訪。
丘陵全体が公園というような場所。眼下に広がるのは松本市街。遠望は北アルプス。
前回も2~3頭観察したのですが、このトンボが多数見かけられました。
チバで夏に観察することはなかなかありません。
この子はメスかと。
胴体の渋い柄が芸術的。
それと、前回、この子の個体変異を採集したので、もしまたいたらとちょっと期待したのですが・・
普通のタイプしかいませんでした。
季節の巡りを知らせてくれたバッタに挨拶して出発しました。
松本市街を抜け、この日の目的地へ向けて走るも、日没まではまだ少し余裕があるのでさらに寄り道。
以前訪れたことのある、キャンプ場の先の沢沿いの山道の様子を確認したかったのです。
曇っていたこともあり、夕暮れ間近に山から吹き下ろしてくる風は、涼しいというよりも冷たい。
三つある沢の入口にはそれぞれゲートがあるのですか、村外者の入山禁止の表示がありました。
前回、キャンプ場の管理人さんに聞いた限りでは、釣り客などは入山可だったのに。
ただ、禁止となる大きな理由がありました。三つの内の真ん中の山道のゲートには。
まさにその時、前方の林の斜面から山道に駆け下りてきたのは黒いクマさんでした。
印象としては体長約2メートル。実態より大きく見えたと思いますが、少なくとも子熊ではなかった。
涼しいどころか肝が冷えました。
ある意味、様子がよくわかったので、目的地に向けて再出発。
宿で一旦旅装を解いて休憩し、前回も行った温泉へ。(宿泊者割引がある)
そこは「せせらぎの湯」というだけあり、国道から離れた川沿いにあり、周辺は民家も街灯もない。
これは絶好のライトトラップ施設だとにらみ、午後8時を過ぎるまでゆっくり温泉に浸かりました。
施設の外には温泉スタンドもあり、蛍光灯の明りが煌々と光っています。
クワガタなどの大物も飛んできそうなのですが、クワガタどころか甲虫類は皆無。
スタンドの上にモデルポーズをしていた美麗な蛾を見て、湯冷めしないうちに宿へ戻りました。
と、その前に。駅にも寄ってみました。これも大規模なライトトラップ。
バスターミナルでもあるのですが、停留所のベンチの上で途方に暮れている子が。
始発まではだいぶあるよと声をかけておきました。
翌朝。いよいよゲームデイですが、宿の玄関に落ちていたのは美しいトンボ。
生きているところを撮りたいところですが、胸と胴体の金属光沢に見惚れました。
さて、宿から虫の谷に向けてひとっ走り。
ゲートをくぐってスタート地点に着き、さっさと支度をして試合開始。
今回のターゲットは下にはいないと思われるため、あまりよそ見をせずにひたすら標高を上げて行く。
意気も揚々と歩いていると作業車両が何台も追い抜いていきました。(もちろん許可車両)
そのため、路上で吸水していたチョウたちはみんな散らされているようでした。
それでも明るい陽だまりに咲く花には、アゲハたちが吸蜜に来ていました。
ミヤマカラスアゲハも見かけましたが、射程外で指をくわえるばかり。
立ち止まって再訪花を待っているとズボンの汗を吸いに来る子。
あまりに至近距離過ぎてネットインできません。
ほとんど何も採集しないままてくてく歩いたので、たった1時間でマムシ広場に到着。
少し休憩し、2つ目のゲートには釣り客の車が2台。(おそらく無許可車両)
でもここから先は入れないので気持ちも少し落ち着く。
しばらく歩くと向こうから下山してきたご婦人の二人組。
すれ違いざま、捕虫網を見た一人が「何かいましたか?」と声をかけてくれました。
「今日は車の行き来が多くて、チョウチョが少しだけ」
「そうですか、でもさっきキベリタテハ見ましたよ、一頭だけでしたが」
「実はそのチョウに会いに来たのです」
「そうですか、会えるといいですね」
予期せぬ目撃情報に俄かに気分が上がってしまったせいか、つい降りて行く背中に質問してしまいました。
「フタマタよりも手前ですか?」
「もっとずっと先」
これは大変だと覚悟を決めるしかないけれど、そんなに上までは時間的にも体力的にも不可能。
もう少し下のエリアにいてくれることを期待して先を急ぎました。
1時間半でフタマタに到着。(沢が二俣に分かれるのでフタマタ)
右手の山道のトンネルに続く橋の上はせせらぎのように水をたたえていました。
こういうところには何かいます。
あっという間に飛び去りましたが、もう一人、前回三振くらった子がいました。
撮るか、採るか、迷いました。
とりあえず証拠写真は撮りたいとじわじわ接近しましたが、これが精一杯でした。
気付かれ飛び立ってしまいましたが、なんとこちらに向かってきたので懐に入られた形で網は振れず。
見逃し三振。
ところがそのとき、その橋の上2メートルほどの高さを横切るチョウの影。
大きさと色はコムラサキのメスのようでもありましたが、まず間違いなくターゲットのあの子。
何故なら、特徴的な翅の縁取りが一瞬見えたからです。
網を振ることはできませんでしたが、目撃できただけでもよかったとほっと胸をなでおろした瞬間。
なんと舞い戻ってきたのですが、またもやスルーしていきました。
気を抜かずに戻ってくるのを想定して網を構えていればよかったと後悔してもまさに後の祭り。
今更ながらしばらく待ってみましたが、ターゲットはおろかミヤマカラスも戻ってきませんでした。
千載一遇のチャンスを逃したかと肩を落としたものの、目撃情報よりは下にいたことで勇気がわく。
トンネルの様子を見に行くと出口の壁面にこんな子が。
ゆうに50ミリを超える、大きくて甚平柄が美しい蛾。
その先は通行止め。橋まで戻り、必然的にもう一方の登山道を進みました。
登山道というより、森の斜面をアップダウンしながら続く獣道。
15分ほど歩いて沢を渡る橋まで来ましたが、ここまで開けている場所はないし、網を振れない。
もう少し上がれば目撃場所なのかもしれませんが、還りのことを考えるとこの辺が限界。
後ろ髪を引かれつつも踵を返し、フタマタまで戻ってきたところで休憩しました。
橋の上が見通せる林縁の倒木に腰掛けて、おにぎりを食べながら出待ち作戦を決め込みました。
すると間もなく、たぶん同じ個体なのでしょう。さっきの子がやってきてほぼ同じ場所で吸水開始。
今度は”採る”ことに専念しました。
そして。
採られてくれてありがとう。
お昼を食べ終えたあともしばらく粘りましたが何も現れてくれなかったので下山開始。
下りの後半戦にかけます。
すると旅のお供が。
捕虫網のネットとロッドを一緒に握って歩いているので、ネットに汗が染み込みます。
汗は桃太郎のきび団子。
しばらく同行してくれたので”撮る”だけにしました。
その恩返しか、足元に突然認めた小さい影に急停止。
なんとゼフの女の子でした。
アゲハたちが集まるクサギは谷に張り出していて指をくわえて見ているだけ。
それからはほとんどチョウが現れることがなく、こんな子たちを撮影しながら歩いていきました。
めずらしく花に来る蛾ですが、かなり日焼けしていました。
クサボタンは其処此処に咲いていました。
今回唯一の甲虫。
前胸の金色の縁取りが美しい。
マムシ広場まで戻ってきたところで腰を下ろして休憩。
道中常に視界に入るくらいたくさんいるアキアカネも一緒に休憩。
さあ、ここからは終盤戦。天気は上々。気温も上がってきたので何か出てきてくれることを期待。
すると、上りでは見られなかった大群に遭遇。
ひとつの株に何十も集まっていました。
表裏のあるチョウだということがわかりますね。
ところでここは前出のフシグロセンノウの群落のある場所。
ときどき黒い影が舞い降りてくるのですが、花が高いところにあって網が届かない。
サカハチたちを間近に見ながら、低いところへとまってくれるのを待ちます。
と、そこへ。この日はじめてのチョウが舞い降りてきました。しかも目の高さ。
採るか、撮るか。
撮りました。
網は振らせてくれませんでした。
でも、その後少し下ったところの橋の上で吸水している別の個体を発見。
今度は迷うことなく採りました。(なので写真は無し)
フシグロセンノウでしばらく粘り、やっとアゲハをネットインした瞬間、降りてきた釣客の車に気を取られて逃がしてしまいました。
まあしょうがないと、それを機にその場を後に。
しばらくまた誰も現れなかったのですが、この谷の数少ない法面のある場所へ差し掛かったとき。
赤と青と黒の三色チョウがとまっているのを見つけました。
遠目でしたが、アカタテハではなく、ヒオドシかエル。
降りてこいと念を送ると、そこへ別の個体が現れてスクランブル発進。
後を追うと法面の一番端っこに着地するもとても高い位置。
のんびり日光浴をはじめたのに気の毒ですが、飛び立ってもらおうと、落ちていた木切れをひょいと投げてみました。
ところが彼の頭上を通過したのに飛び立たず。 法面に当たって落ちてきたときも無反応。
木は気にならないようです。
結局、その子はたまに翅を動かしながら日光浴を続けていましたが根負けして離脱しました。
さらに少し下ったところに水場のようになっている砂利場がありました。
そこに何やら怪しい影が。
遠目にはクロアゲハですが、尾状突起が見えない。
まさかナガサキアゲハ? じりじりとにじり寄って、まずは撮ることに。
尾状突起が両方とも欠損しているのでした。
さあ今度は”採る”モードにしようとしたとき。またしても釣り客の車が来て散らされてしまいました。
またかとガックリはしたものの、どうせならもう一度法面の様子を見に行こうと、戻ってみることに。
先ほどの法面を見上げると、なんとあんなに動かなかった子の姿がなくなっていました。
ありゃりゃと再度ガックリしたその刹那。
天使がすーっと舞い降りてきたのです。 そう、ターゲットの君が。
法面にとまったので、一瞬考えました。
撮るか、採るか。
これはもうラストチャンス、採ることに専念しようと決意し、網を中段に構えた直後。
執念のテレパシーが伝わったのか、天使は法面から飛び立ち、なんとこちらに向かって舞い降りた。
9回裏2アウトの場面、無心で振った網に天使はヒットしてくれました。
よくもまあ、こんなドラマチックなことが起きるものだと思いつつも、いい試合だったと、気分よく谷の入口まで戻りました。
もう地面の子たちはみんな車で散らされているだろうと思いましたが、一頭だけ見つけました。
この子も含め、振り返ってみるとこの日、”撮った”チョウは採れず、”採った”チョウは撮れなかった。
やはり欲をかくと何も得られないということをつくづく実感。
探虫行はまだ続くのですが、長くなるのでまた別途。
スワまで降りて行く途中、とある公園に寄ってみました。
丘というより小山の登り口には人工的に整備された池がありましたが、さびれていて誰もいない。
様子だけ見ようと木道を歩いていると、目の前をふわふわと浮かぶように飛ぶ小さな物体。
あまりに弱々しく飛ぶのでカゲロウか何かと思いましたが、とまったところを見てやっとトンボだと。
体長30ミリ弱。胴長約20ミリ。
未成熟なのか、まだクロイトトンボらしい色が出ていませんが、胴は黒いので。
ちなみに2個体観察。
山頂で景色を見て後にしました。
スワではゲストハウスに泊まったのですが、不思議なことがありました。
それはまた次回・・
今日の湯加減
前回は予定を変更して2日連続でアタックし、収獲としては満足して帰ってきたのですが。
口惜しかったわけでもなく、未練がぬぐえなかったわけでもなく、ただ気持ちが向かっていました。
再訪の一番大きなモチベーションは、この時期ではのターゲットがあること。
その子に出会うことにチャレンジすることにしました。
それはこのチョウチョ。
キベリタテハ (タテハチョウ科)
この写真はもう7年も前のだということに気が付き、あまりのご無沙汰ぶりも動機になったと合点。
7年前とはフィールドが違うのですが、果たして結果はいかに。
今回はベニシジミ(春型)号で一人旅。
8月25日の朝、出発しようとしたら、いきなりエンジンストール。
セルスタートがふんづまることが時々あったのですが、エンジン始動後にストールしたのははじめて。
これでは遠出するには心配なので、急きょかかりつけのバイクショップへ寄ることにしました。
まだ開店前でしたが店長がいて、さっそく点検。今までの症状も伝えていたので、何かなぁと思案。
リレー(3つも使っているらしい)ならセローと共通だから交換できるとサイドカバーをはずし・・
結果的には、単なるバッテリー接点の問題でした。
ついでにチェーンのテンションとタイヤの空気圧を調整してもらってコンディションは万全に。
出発は11時になってしまいましたが、上りは日曜ということもあって混雑もなく、ずっと下道で都心をするりと横断。
調布から中央道に乗るとさすがに下りは多少混雑していましたが、渋滞というほどでもなく。
相変わらず肩の調子が万全でないのでゆっくり目に走ろうと思っていたので丁度いいペース。
甲府の双葉SAで遅めのお昼(富士の雲海ラーメン)を食べて、一気に松本まで。
一日目は移動日なので、前回寄り道した公園を再訪。
丘陵全体が公園というような場所。眼下に広がるのは松本市街。遠望は北アルプス。
前回も2~3頭観察したのですが、このトンボが多数見かけられました。
オツネントンボ ♂(アオイトトンボ科)
チバで夏に観察することはなかなかありません。
この子はメスかと。
同上 ♀
胴体の渋い柄が芸術的。
それと、前回、この子の個体変異を採集したので、もしまたいたらとちょっと期待したのですが・・
普通のタイプしかいませんでした。
ジャノメチョウ ♀ (タテハチョウ科)
季節の巡りを知らせてくれたバッタに挨拶して出発しました。
松本市街を抜け、この日の目的地へ向けて走るも、日没まではまだ少し余裕があるのでさらに寄り道。
以前訪れたことのある、キャンプ場の先の沢沿いの山道の様子を確認したかったのです。
曇っていたこともあり、夕暮れ間近に山から吹き下ろしてくる風は、涼しいというよりも冷たい。
三つある沢の入口にはそれぞれゲートがあるのですか、村外者の入山禁止の表示がありました。
前回、キャンプ場の管理人さんに聞いた限りでは、釣り客などは入山可だったのに。
ただ、禁止となる大きな理由がありました。三つの内の真ん中の山道のゲートには。
まさにその時、前方の林の斜面から山道に駆け下りてきたのは黒いクマさんでした。
印象としては体長約2メートル。実態より大きく見えたと思いますが、少なくとも子熊ではなかった。
涼しいどころか肝が冷えました。
ある意味、様子がよくわかったので、目的地に向けて再出発。
宿で一旦旅装を解いて休憩し、前回も行った温泉へ。(宿泊者割引がある)
そこは「せせらぎの湯」というだけあり、国道から離れた川沿いにあり、周辺は民家も街灯もない。
これは絶好のライトトラップ施設だとにらみ、午後8時を過ぎるまでゆっくり温泉に浸かりました。
施設の外には温泉スタンドもあり、蛍光灯の明りが煌々と光っています。
クワガタなどの大物も飛んできそうなのですが、クワガタどころか甲虫類は皆無。
スタンドの上にモデルポーズをしていた美麗な蛾を見て、湯冷めしないうちに宿へ戻りました。
ユウマダラエダシャク ?(シャクガ科)
と、その前に。駅にも寄ってみました。これも大規模なライトトラップ。
バスターミナルでもあるのですが、停留所のベンチの上で途方に暮れている子が。
ウスバカミキリ (カミキリムシ科)
始発まではだいぶあるよと声をかけておきました。
翌朝。いよいよゲームデイですが、宿の玄関に落ちていたのは美しいトンボ。
タカネトンボ (エゾトンボ科)
生きているところを撮りたいところですが、胸と胴体の金属光沢に見惚れました。
さて、宿から虫の谷に向けてひとっ走り。
ゲートをくぐってスタート地点に着き、さっさと支度をして試合開始。
今回のターゲットは下にはいないと思われるため、あまりよそ見をせずにひたすら標高を上げて行く。
意気も揚々と歩いていると作業車両が何台も追い抜いていきました。(もちろん許可車両)
そのため、路上で吸水していたチョウたちはみんな散らされているようでした。
それでも明るい陽だまりに咲く花には、アゲハたちが吸蜜に来ていました。
フシグロセンノウ
ミヤマカラスアゲハも見かけましたが、射程外で指をくわえるばかり。
立ち止まって再訪花を待っているとズボンの汗を吸いに来る子。
イチモンジチョウ (タテハチョウ科)
あまりに至近距離過ぎてネットインできません。
ほとんど何も採集しないままてくてく歩いたので、たった1時間でマムシ広場に到着。
少し休憩し、2つ目のゲートには釣り客の車が2台。(おそらく無許可車両)
でもここから先は入れないので気持ちも少し落ち着く。
しばらく歩くと向こうから下山してきたご婦人の二人組。
すれ違いざま、捕虫網を見た一人が「何かいましたか?」と声をかけてくれました。
「今日は車の行き来が多くて、チョウチョが少しだけ」
「そうですか、でもさっきキベリタテハ見ましたよ、一頭だけでしたが」
「実はそのチョウに会いに来たのです」
「そうですか、会えるといいですね」
予期せぬ目撃情報に俄かに気分が上がってしまったせいか、つい降りて行く背中に質問してしまいました。
「フタマタよりも手前ですか?」
「もっとずっと先」
これは大変だと覚悟を決めるしかないけれど、そんなに上までは時間的にも体力的にも不可能。
もう少し下のエリアにいてくれることを期待して先を急ぎました。
1時間半でフタマタに到着。(沢が二俣に分かれるのでフタマタ)
右手の山道のトンネルに続く橋の上はせせらぎのように水をたたえていました。
こういうところには何かいます。
キバネセセリ (セセリチョウ科)
あっという間に飛び去りましたが、もう一人、前回三振くらった子がいました。
ミヤマカラスアゲハ (アゲハチョウ科)
撮るか、採るか、迷いました。
とりあえず証拠写真は撮りたいとじわじわ接近しましたが、これが精一杯でした。
気付かれ飛び立ってしまいましたが、なんとこちらに向かってきたので懐に入られた形で網は振れず。
見逃し三振。
ところがそのとき、その橋の上2メートルほどの高さを横切るチョウの影。
大きさと色はコムラサキのメスのようでもありましたが、まず間違いなくターゲットのあの子。
何故なら、特徴的な翅の縁取りが一瞬見えたからです。
網を振ることはできませんでしたが、目撃できただけでもよかったとほっと胸をなでおろした瞬間。
なんと舞い戻ってきたのですが、またもやスルーしていきました。
気を抜かずに戻ってくるのを想定して網を構えていればよかったと後悔してもまさに後の祭り。
今更ながらしばらく待ってみましたが、ターゲットはおろかミヤマカラスも戻ってきませんでした。
千載一遇のチャンスを逃したかと肩を落としたものの、目撃情報よりは下にいたことで勇気がわく。
トンネルの様子を見に行くと出口の壁面にこんな子が。
ゆうに50ミリを超える、大きくて甚平柄が美しい蛾。
チャマダラエダシャク (シャクガ科)
その先は通行止め。橋まで戻り、必然的にもう一方の登山道を進みました。
登山道というより、森の斜面をアップダウンしながら続く獣道。
15分ほど歩いて沢を渡る橋まで来ましたが、ここまで開けている場所はないし、網を振れない。
もう少し上がれば目撃場所なのかもしれませんが、還りのことを考えるとこの辺が限界。
後ろ髪を引かれつつも踵を返し、フタマタまで戻ってきたところで休憩しました。
橋の上が見通せる林縁の倒木に腰掛けて、おにぎりを食べながら出待ち作戦を決め込みました。
すると間もなく、たぶん同じ個体なのでしょう。さっきの子がやってきてほぼ同じ場所で吸水開始。
今度は”採る”ことに専念しました。
そして。
ミヤマカラスアゲハ
採られてくれてありがとう。
お昼を食べ終えたあともしばらく粘りましたが何も現れてくれなかったので下山開始。
下りの後半戦にかけます。
すると旅のお供が。
ヒメキマダラヒカゲ (タテハチョウ科)
捕虫網のネットとロッドを一緒に握って歩いているので、ネットに汗が染み込みます。
汗は桃太郎のきび団子。
しばらく同行してくれたので”撮る”だけにしました。
その恩返しか、足元に突然認めた小さい影に急停止。
なんとゼフの女の子でした。
ミドリシジミの仲間(未同定)
アゲハたちが集まるクサギは谷に張り出していて指をくわえて見ているだけ。
それからはほとんどチョウが現れることがなく、こんな子たちを撮影しながら歩いていきました。
キンモンガ (アゲハモドキガ科)
めずらしく花に来る蛾ですが、かなり日焼けしていました。
クサボタンは其処此処に咲いていました。
マルハナバチの仲間
今回唯一の甲虫。
前胸の金色の縁取りが美しい。
アオハナムグリ (コガネムシ科)
マムシ広場まで戻ってきたところで腰を下ろして休憩。
道中常に視界に入るくらいたくさんいるアキアカネも一緒に休憩。
アキアカネ ♀ (トンボ科)
さあ、ここからは終盤戦。天気は上々。気温も上がってきたので何か出てきてくれることを期待。
すると、上りでは見られなかった大群に遭遇。
サカハチチョウ (タテハチョウ科)
ひとつの株に何十も集まっていました。
同上
表裏のあるチョウだということがわかりますね。
ところでここは前出のフシグロセンノウの群落のある場所。
ときどき黒い影が舞い降りてくるのですが、花が高いところにあって網が届かない。
サカハチたちを間近に見ながら、低いところへとまってくれるのを待ちます。
と、そこへ。この日はじめてのチョウが舞い降りてきました。しかも目の高さ。
採るか、撮るか。
撮りました。
スミナガシ (タテハチョウ科)
網は振らせてくれませんでした。
でも、その後少し下ったところの橋の上で吸水している別の個体を発見。
今度は迷うことなく採りました。(なので写真は無し)
フシグロセンノウでしばらく粘り、やっとアゲハをネットインした瞬間、降りてきた釣客の車に気を取られて逃がしてしまいました。
まあしょうがないと、それを機にその場を後に。
しばらくまた誰も現れなかったのですが、この谷の数少ない法面のある場所へ差し掛かったとき。
赤と青と黒の三色チョウがとまっているのを見つけました。
遠目でしたが、アカタテハではなく、ヒオドシかエル。
降りてこいと念を送ると、そこへ別の個体が現れてスクランブル発進。
後を追うと法面の一番端っこに着地するもとても高い位置。
のんびり日光浴をはじめたのに気の毒ですが、飛び立ってもらおうと、落ちていた木切れをひょいと投げてみました。
ところが彼の頭上を通過したのに飛び立たず。 法面に当たって落ちてきたときも無反応。
木は気にならないようです。
結局、その子はたまに翅を動かしながら日光浴を続けていましたが根負けして離脱しました。
さらに少し下ったところに水場のようになっている砂利場がありました。
そこに何やら怪しい影が。
遠目にはクロアゲハですが、尾状突起が見えない。
まさかナガサキアゲハ? じりじりとにじり寄って、まずは撮ることに。
オナガアゲハ ♂ (アゲハチョウ)
尾状突起が両方とも欠損しているのでした。
さあ今度は”採る”モードにしようとしたとき。またしても釣り客の車が来て散らされてしまいました。
またかとガックリはしたものの、どうせならもう一度法面の様子を見に行こうと、戻ってみることに。
先ほどの法面を見上げると、なんとあんなに動かなかった子の姿がなくなっていました。
ありゃりゃと再度ガックリしたその刹那。
天使がすーっと舞い降りてきたのです。 そう、ターゲットの君が。
法面にとまったので、一瞬考えました。
撮るか、採るか。
これはもうラストチャンス、採ることに専念しようと決意し、網を中段に構えた直後。
執念のテレパシーが伝わったのか、天使は法面から飛び立ち、なんとこちらに向かって舞い降りた。
9回裏2アウトの場面、無心で振った網に天使はヒットしてくれました。
キベリタテハ (タテハチョウ科)
よくもまあ、こんなドラマチックなことが起きるものだと思いつつも、いい試合だったと、気分よく谷の入口まで戻りました。
もう地面の子たちはみんな車で散らされているだろうと思いましたが、一頭だけ見つけました。
ミスジチョウ (タテハチョウ科)
この子も含め、振り返ってみるとこの日、”撮った”チョウは採れず、”採った”チョウは撮れなかった。
やはり欲をかくと何も得られないということをつくづく実感。
探虫行はまだ続くのですが、長くなるのでまた別途。
オマケ
スワまで降りて行く途中、とある公園に寄ってみました。
丘というより小山の登り口には人工的に整備された池がありましたが、さびれていて誰もいない。
様子だけ見ようと木道を歩いていると、目の前をふわふわと浮かぶように飛ぶ小さな物体。
あまりに弱々しく飛ぶのでカゲロウか何かと思いましたが、とまったところを見てやっとトンボだと。
クロイトトンボ ? (イトトンボ科)
体長30ミリ弱。胴長約20ミリ。
未成熟なのか、まだクロイトトンボらしい色が出ていませんが、胴は黒いので。
ちなみに2個体観察。
山頂で景色を見て後にしました。
右側に頭をのぞかせているのは鉢伏山
スワではゲストハウスに泊まったのですが、不思議なことがありました。
それはまた次回・・
今日の湯加減
前記事を少し加筆・修正しました。
もし、前記事をご覧になってくれた方はもう一度読んでいただけるとうれしいです。
西陣の知り合いの職人さんがその後も色々調べてくれたのです。
とても興味深いことも分かりました。
"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
そうでやすね、トンボの胴体って金属っぽいでやすね。
ちなみに今日これからあっしが行く映画館のロビーには
金属の胴体のトンボのオブジェが吊るされてやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-09-01 12:18)
大収穫ですね。
しかしリアル熊さんとはビックリ。
向かってきたらバイクのUターンは命懸けの距離だ。
by 響 (2019-09-02 19:40)
>ぼんぼちぼちぼちさん
すべてのトンボが金属光沢をもっているわけではないですが、
トンボはどれも美麗ですね。
トンボのある映画館、行ってみたいです^^
>響さん
バイクだったらUターンよりむしろ突撃という手も・・ないか^^;
歩きだったので、もうダメかと思いました・・> <
by ぜふ (2019-09-03 21:19)
狙っていたチョウが、9回裏2アウトの場面で、捕獲できるとは。
劇的な幕切れでしたね^^;。
ミヤマカラスアゲハの写真、私のモニタのせいなのか、
水面のきらきらひかる様子が、紫色に見えます。
by sakamono (2019-09-05 21:22)
前記事も興味深く読みました。
推理小説の謎解きのようなおもしろさ^^;。
言葉は世につれて変わるモノですものね。
子供の頃、裏の家から機織りの音が聞こえていた
コトを思い出しました。
by sakamono (2019-09-05 21:33)
>sakamonoさん
何も加工はしてなくて、水の反射が紫色に写りました^^
ひとつ前のキバネセセリの写真も同じです。
虫の種名もそうてすが、名前の由来を考えるのは面白いです♪
機織りの音が聞こえるのは貴重な生活体験ですね。
by ぜふ (2019-09-05 23:50)