"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
昆虫の色と形の不思議 [オサムシ]
タイトルの企画展示が5月25日から文京区教育センターで開催されています。(10月5日まで)
会期中、昆虫学者による講演会が何回か催行されます。
東京大学総合研究博物館が後援ということで、同博物館の研究員、キュレーターの方々が登壇。
そして最大のキモはオサムシ研究の大家である石川良輔先生の講演が何度かあることです。
展示物は石川先生が寄贈されたオサムシの仲間の標本の数々。
”スクール・モバイルミュージアム”とも銘打っています。
8月3日の石川先生の講演「オサムシ研究とその魅力」は遠征中だったので参加できず。
8月10日の石川先生の内弟子、久保田耕平先生の講演「オサムシの種分化と種間交雑」は参加。
久保田先生とは何度かお会いしていたのですが、石川先生の弟子だったことは初めて知りました。
備忘録的に講演の中のマヤサンオサムシとイワワキオサムシの種間交雑のキーワードをあげておくと。
・種分化は隔離されると起こりやすい(箱庭的種分化)
・側所的分布(1kmバンド)は維持されるかどちらか一方の種が絶滅する
・生殖隔離が強化されるとゲニタリアが伸延する
・性淘汰仮説
研究のルーツはオサムシですが、現在はルリクワガタの種分化や生態について注力されているようです。
ルリクワガタはキシロースを分解する共生細菌(酵母)を獲得しているそうです。
8月17日は「博物館での昆虫研究生活」と題して、博物館職員の矢後さんとその弟子の方の講演。
昆虫学者の活動や日々の仕事内容の紹介がありました。
でも何故か、昆虫学者はこんなに楽しいんだよというアピールがほとんどなかった。
オトナたちはその魅力をくみ取れたと思いますが、何人かいた小学生の子たちに伝わったか心配。
でも、講演終了後に質疑の時間をたっぷりとってくれて、オトナもコドモも楽しめたと思います。
標本展示の方に戻りますが、並べられていたのはもちろんごく一部でしょう。
でも石川先生の秘蔵標本だったでしょうから、展示にあたり丁寧にメンテナンスされていたと思います。
外国産の標本もありましたが、やはり国産のオサムシたちに惹かれます。
どれも(当然ですが)自然の輝きを放つ宝物。
オサムシは寒冷地ほど色彩が鮮やかでかつ変異に富みます。
国内だけで千数百か所も採集に行かれたそうです。
愛用していた採集道具も展示されていました。
結構大きな鶴嘴を使っていたようですが、トラッピングではなくオサホリ用でしょう。
それよりもスプレーが気になりました。
これはどうやら、オサムシを誘引する匂いの液体をベイトの代わりにトラップに噴霧するためのよう。
液体の正体は分かりませんが、きっと特別なブレンドなんでしょうね。
さて、それよりもこの展示でもっとも気になったのがこちら。
この説明にはいくつか疑問があります。
まず一つ目。
「機織り機に使うシャトルのことを日本語では”おさ(梭・筬)”と呼ぶことがあります」とありますが
シャトルに使われる字は”梭”で、”筬”という字は使われません。
”梭”は音読みでは”サ”、訓読みでは”ひ”ですが、”おさ”と読んでいる文献もあるそうです。
ただ、”梭”と”筬”の同一性を明確にする文献があるかどうかは不明です。
二つ目。
「下に展示されている木製品がその”おさ”です」とありますが、これは”筬”ではなく、”杼(ひ)”です。
オサムシの”オサ”は”筬”だと思いますが、形として似ているのは”杼”です。
以前(6年前)の記事でも書いたとおりです。
杼は写真のような紡錘形をした道具で「シャトル」と言われ、筬は「リード」と呼ばれるそうです。
リードとは、シャトルで通した横糸を叩いて詰める、大きな櫛のような道具です。
(よく機織りのシーンで、とんとんとしているやつ)
三つ目。
「糸巻き 機織りの横糸を通すための道具で杼(ひ)や梭(おさ)と呼ばれる」とありますが、上記の通り、現在、シャトルは通常”おさ”と呼ばれることはないそうです。
機織り業界では通常、オサは”筬”という字が使われるようですが、古い文献や小説には”梭”という字が使われている例もあります。
「正面に向って、聯(れん)などを読んでいると、すぐ傍(そば)で梭(おさ)の音がする。」
(満韓ところどころ / 夏目漱石)
これはシャトルではなく、リードのとんとんという音なのだと想像します。
ところが、シャトルのことを指しているような作品もあります。
「のみならず神鳴(かみなり)も急に凄じく鳴りはためいて、絶えず稲妻が梭(おさ)のように飛びちがうのでございます。」
(竜 / 芥川龍之介)
”飛びちがう”と言っていますから、これはシャトルのことでしょう。
「梭(おさ)を投げた娘の目も、山の方へ瞳が通い、足踏みをした女房の胸にも、海の波は映らぬらしい。」
(春昼 / 泉鏡花)
”投げ”ると言っているのだからこれもシャトルのことだと思います。(リードは投げられない)
ところが同じ本の中に次の記述も。
「散策子は踵(くびす)を廻めぐらして、それから、きりきりはたり、きりきりはたりと、鶏が羽うつような梭(おさ)の音を慕う如く」
(春昼 / 泉鏡花)
これはリードのことでもあるようですが、著者はリードとシャトルを併せて梭(おさ)と呼んでいるのかもしれません。
そしてなんと、ファーブルの著書にも。
「それと同時に、織り手は梭(おさ)の横糸を、左から右、右から左と、半分づつの経糸二つの間を通す。それで織物が出来上るのだ。」
(科学の不思議 / ジャン=アンリ・ファーブル (伊藤 野枝 訳))
翻訳ではありますが、あきらかにこれはシャトルのことを指しています。
という様なことを京都在住の織物職人の知人に問い合わせて知りましたが、面白いこともわかりました。
現在の中国語では、”筬”にあたるものが”杼”という字を、”杼”にあたるものが”筬”という字を使うとか。
つまり逆転現象がおきているのです。
すると、過去記事の仮説が俄かに現実味を帯びてきます。
オサムシは機織り道具のシャトルに形が似ていますが、シャトルには中国では”筬”の字が使われているため”筬虫”となり、その読みから”オサムシ”となった。
整理すると、現代日本ではリードは「おさ(筬)」、シャトルは「ひ(杼)」と呼んでいる。
しかし、以前はシャトルのことも「梭(おさ)」と表すこともあったり、リードもあわせて機織り道具を”オサ”と呼ぶこともあったりしたのかもしれません。
オサムシの名前の由来は、背中の模様(条線)がリード(筬)のスリットに似ているからという説もありますが、やはり紡錘形のシャトル(杼)に似ているからという方が自然でしょう。
ただ、シャトルは「杼(ひ)」の他に「梭(おさ)」とも呼ばれていたので”オサムシ”となった。
ということはやはり、ひょっとしたら”オサムシ”ではなく、”ヒムシ”とされていたかもしれませんね。
先月、アキアカネが大発生したことを書きましたが、次に近所で大発生したのはアブラゼミ。
自宅のすぐ裏の緑地は、低い木でも一本に20匹くらいとまっている様子でした。
近づくと木の幹にいるのだけでなく、梢に止まっていたのも飛び立ち、おしっこシャワーを浴びます。
多すぎるせいか、中には逃げることもなくそのまま幹に止まっている鈍感なのもいる始末。
だからというわけではありませんが、セミ・トンボ標本教室用にミンミンやアブラゼミを採りました。
余ったセミたちは捨てたりしません。
毎度のことですが、納涼会の試食用の食材となります。
素揚げにしたアブラゼミはメスの方がおいしいと思っていましたが、今回は好みが分かれました。
(淡白な味のオスの方が食べやすいという意見も)
とにかくセミは素揚げして塩を振っただけでもおいしいです。
こんなカワイイ子もぱくぱく食べていましたから。
今日の湯加減
会期中、昆虫学者による講演会が何回か催行されます。
東京大学総合研究博物館が後援ということで、同博物館の研究員、キュレーターの方々が登壇。
そして最大のキモはオサムシ研究の大家である石川良輔先生の講演が何度かあることです。
展示物は石川先生が寄贈されたオサムシの仲間の標本の数々。
”スクール・モバイルミュージアム”とも銘打っています。
8月3日の石川先生の講演「オサムシ研究とその魅力」は遠征中だったので参加できず。
8月10日の石川先生の内弟子、久保田耕平先生の講演「オサムシの種分化と種間交雑」は参加。
久保田先生とは何度かお会いしていたのですが、石川先生の弟子だったことは初めて知りました。
備忘録的に講演の中のマヤサンオサムシとイワワキオサムシの種間交雑のキーワードをあげておくと。
・種分化は隔離されると起こりやすい(箱庭的種分化)
・側所的分布(1kmバンド)は維持されるかどちらか一方の種が絶滅する
・生殖隔離が強化されるとゲニタリアが伸延する
・性淘汰仮説
研究のルーツはオサムシですが、現在はルリクワガタの種分化や生態について注力されているようです。
ルリクワガタはキシロースを分解する共生細菌(酵母)を獲得しているそうです。
8月17日は「博物館での昆虫研究生活」と題して、博物館職員の矢後さんとその弟子の方の講演。
昆虫学者の活動や日々の仕事内容の紹介がありました。
でも何故か、昆虫学者はこんなに楽しいんだよというアピールがほとんどなかった。
オトナたちはその魅力をくみ取れたと思いますが、何人かいた小学生の子たちに伝わったか心配。
でも、講演終了後に質疑の時間をたっぷりとってくれて、オトナもコドモも楽しめたと思います。
標本展示の方に戻りますが、並べられていたのはもちろんごく一部でしょう。
でも石川先生の秘蔵標本だったでしょうから、展示にあたり丁寧にメンテナンスされていたと思います。
オオルリオサムシ (オサムシ科)
外国産の標本もありましたが、やはり国産のオサムシたちに惹かれます。
どれも(当然ですが)自然の輝きを放つ宝物。
オサムシは寒冷地ほど色彩が鮮やかでかつ変異に富みます。
同上
国内だけで千数百か所も採集に行かれたそうです。
愛用していた採集道具も展示されていました。
結構大きな鶴嘴を使っていたようですが、トラッピングではなくオサホリ用でしょう。
それよりもスプレーが気になりました。
これはどうやら、オサムシを誘引する匂いの液体をベイトの代わりにトラップに噴霧するためのよう。
液体の正体は分かりませんが、きっと特別なブレンドなんでしょうね。
さて、それよりもこの展示でもっとも気になったのがこちら。
この説明にはいくつか疑問があります。
まず一つ目。
「機織り機に使うシャトルのことを日本語では”おさ(梭・筬)”と呼ぶことがあります」とありますが
シャトルに使われる字は”梭”で、”筬”という字は使われません。
”梭”は音読みでは”サ”、訓読みでは”ひ”ですが、”おさ”と読んでいる文献もあるそうです。
ただ、”梭”と”筬”の同一性を明確にする文献があるかどうかは不明です。
二つ目。
「下に展示されている木製品がその”おさ”です」とありますが、これは”筬”ではなく、”杼(ひ)”です。
オサムシの”オサ”は”筬”だと思いますが、形として似ているのは”杼”です。
以前(6年前)の記事でも書いたとおりです。
杼は写真のような紡錘形をした道具で「シャトル」と言われ、筬は「リード」と呼ばれるそうです。
リードとは、シャトルで通した横糸を叩いて詰める、大きな櫛のような道具です。
(よく機織りのシーンで、とんとんとしているやつ)
三つ目。
「糸巻き 機織りの横糸を通すための道具で杼(ひ)や梭(おさ)と呼ばれる」とありますが、上記の通り、現在、シャトルは通常”おさ”と呼ばれることはないそうです。
機織り業界では通常、オサは”筬”という字が使われるようですが、古い文献や小説には”梭”という字が使われている例もあります。
「正面に向って、聯(れん)などを読んでいると、すぐ傍(そば)で梭(おさ)の音がする。」
(満韓ところどころ / 夏目漱石)
これはシャトルではなく、リードのとんとんという音なのだと想像します。
ところが、シャトルのことを指しているような作品もあります。
「のみならず神鳴(かみなり)も急に凄じく鳴りはためいて、絶えず稲妻が梭(おさ)のように飛びちがうのでございます。」
(竜 / 芥川龍之介)
”飛びちがう”と言っていますから、これはシャトルのことでしょう。
「梭(おさ)を投げた娘の目も、山の方へ瞳が通い、足踏みをした女房の胸にも、海の波は映らぬらしい。」
(春昼 / 泉鏡花)
”投げ”ると言っているのだからこれもシャトルのことだと思います。(リードは投げられない)
ところが同じ本の中に次の記述も。
「散策子は踵(くびす)を廻めぐらして、それから、きりきりはたり、きりきりはたりと、鶏が羽うつような梭(おさ)の音を慕う如く」
(春昼 / 泉鏡花)
これはリードのことでもあるようですが、著者はリードとシャトルを併せて梭(おさ)と呼んでいるのかもしれません。
そしてなんと、ファーブルの著書にも。
「それと同時に、織り手は梭(おさ)の横糸を、左から右、右から左と、半分づつの経糸二つの間を通す。それで織物が出来上るのだ。」
(科学の不思議 / ジャン=アンリ・ファーブル (伊藤 野枝 訳))
翻訳ではありますが、あきらかにこれはシャトルのことを指しています。
という様なことを京都在住の織物職人の知人に問い合わせて知りましたが、面白いこともわかりました。
現在の中国語では、”筬”にあたるものが”杼”という字を、”杼”にあたるものが”筬”という字を使うとか。
つまり逆転現象がおきているのです。
すると、過去記事の仮説が俄かに現実味を帯びてきます。
オサムシは機織り道具のシャトルに形が似ていますが、シャトルには中国では”筬”の字が使われているため”筬虫”となり、その読みから”オサムシ”となった。
整理すると、現代日本ではリードは「おさ(筬)」、シャトルは「ひ(杼)」と呼んでいる。
しかし、以前はシャトルのことも「梭(おさ)」と表すこともあったり、リードもあわせて機織り道具を”オサ”と呼ぶこともあったりしたのかもしれません。
オサムシの名前の由来は、背中の模様(条線)がリード(筬)のスリットに似ているからという説もありますが、やはり紡錘形のシャトル(杼)に似ているからという方が自然でしょう。
ただ、シャトルは「杼(ひ)」の他に「梭(おさ)」とも呼ばれていたので”オサムシ”となった。
ということはやはり、ひょっとしたら”オサムシ”ではなく、”ヒムシ”とされていたかもしれませんね。
オマケ
先月、アキアカネが大発生したことを書きましたが、次に近所で大発生したのはアブラゼミ。
自宅のすぐ裏の緑地は、低い木でも一本に20匹くらいとまっている様子でした。
アブラゼミ (セミ科)
近づくと木の幹にいるのだけでなく、梢に止まっていたのも飛び立ち、おしっこシャワーを浴びます。
多すぎるせいか、中には逃げることもなくそのまま幹に止まっている鈍感なのもいる始末。
だからというわけではありませんが、セミ・トンボ標本教室用にミンミンやアブラゼミを採りました。
余ったセミたちは捨てたりしません。
毎度のことですが、納涼会の試食用の食材となります。
(保護者の許可を得て掲載しています)
素揚げにしたアブラゼミはメスの方がおいしいと思っていましたが、今回は好みが分かれました。
(淡白な味のオスの方が食べやすいという意見も)
とにかくセミは素揚げして塩を振っただけでもおいしいです。
こんなカワイイ子もぱくぱく食べていましたから。
決してセミハラではありません
今日の湯加減
数日前、パソコンを操作していると、机の上の小さなタッパーの上に黒い小さなものが。
ほんの数ミリ。見た瞬間、アリだと思って「網戸の隙間からでも入ってきたのかなぁ」と呟きながら
つまもうと顔を近づけてみると、その黒いやつはアリではありませんでした。
アリにはないカマがあったからです。
思い当たることはありました。
記事にも載せた例の外国産の小型のカマキリ。
とうとう最後の一匹(♀)が★になったので、ケースを掃除して片づけたのでした。
その時、ケースに入れていた止まり木は確認したつもりでした。
卵は産んでいないと思って、部屋の隅の箱へ投げ入れていたのです。
あらためて箱の中の枝を見てびっくり。ありました、卵鞘が。小型の種なので卵鞘も小さかった。
これはまずい・・・天井を見るのがはばかられました。
"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
へえ、蝉って素揚げで食べられるのでやすね!
あっしも一度食べてみたいでやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2019-08-25 16:12)
1本の木にこんなにセミが!
ビックリです(@@
うちの近所の公園にもトンボが飛び始めましたっ
でも何トンボか分からず・・・
by リュカ (2019-08-26 10:12)
>ぼんぼちぼちぼちさん
食材は身近にあるでしょうから、ぜひ一度ご試食ください^^
>リュカさん
セミのなる木でしたね^^
もう今はめっきり少なくなりましたが・・秋ですね。
by ぜふ (2019-08-29 08:19)
オサムシがたくさん並ぶ様子は、芸術作品のようです。
オサムシの命名は、機織りの道具からきていたんですね。
セミって確かに、素揚げして塩をふったら、食べられ
そうな気がします^^;。
by sakamono (2019-08-29 23:22)
>sakamonoさん
まさに宝石箱のようでした。
オサムシの由来についてはもう少し調べようと思います。
セミはちゃんと調理すればさらにおいしいと思いますよ^^
by ぜふ (2019-08-31 00:30)
同じようで同じではない、、、
いくつも比べて、採取して、並べて、、見事な標本に
すごいな、、、
セミ・すっかり声を潜め姿も見かけなくなりました、、季節の移り変わりですね・、こちらはアブラセミよりクマセミの個体数が多くなってきました
by engrid (2019-08-31 17:55)
>engridさん
これでもコレクションの一部なのだと思います。
関東もアブラゼミの声は聞こえなくなりました。
ツクツクボウシが夏休みのおわりを告げています。
by ぜふ (2019-08-31 23:20)