"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
赤トンボの色々 [トンボ]
秋もいよいよ深まり、先週は都内でも何匹か観察できた赤とんぼも姿が見えなくなりつつあります。
冬になる前にはアップしたいと思っていながら、なかなか書けずにいたこの記事。
2年前の記事を下書きにして書いてみます。
このトンボの見当が付く方にはあまり参考にならないかもしれませんが、マイメモとして。。
さあ、まずは赤トンボのおさらいをしましょう。
”赤トンボ”とは、狭義には、トンボ科のアカネ属(アカネ亜科またはアカトンボ亜科とも)のことをいいます。
ところが、アカネ属には赤くならない種類(ムツアカネやナニワトンボなど)がいますので、広義には、赤色や橙色の体色をしたトンボを指すようですが、そうすると、アカネ属ではない、ハッチョウトンボやベニイトトンボなどが含まれることになります。
ややこしいので、ここでは、赤トンボ=アカネ属のトンボということにしています。
アカネ属には次のようなトンボが分類されています。 (国外から飛来するものを除く)
(A群)
ノシメトンボ
コノシメトンボ
リスアカネ
ヒメリスアカネ
ミヤマアカネ
マユタテアカネ ※
(B群)
ナツアカネ
アキアカネ
マユタテアカネ ※
ヒメアカネ
マイコアカネ
ムツアカネ
ネキトンボ
ナニワトンボ
マダラナニワトンボ
タイリクアカネ
エゾアカネ
キトンボ
オオキトンボ
こうして一覧にしてみるとわかりますが、実は ”アカトンボ” というトンボはいないんです。
上のA群とB群は仮の分類です。(※ マユタテアカネは両方に属しますがその理由は後述)
A群は翅の先に斑紋がある仲間、B群は斑紋がない仲間です。
まず、A群の代表選手。もうおなじみですね。
斑紋が何かわかったでしょうか? いわゆる”ツマグロ”のような、翅先の濃い茶色の模様のことです。
ではもう一種類。
ノシメにもありますが、”眉立て”というように顔(複眼の下)に平安貴族のような丸い眉があります。
(目の下に眉というのも変ですけど、ブタ鼻というとかわいそうだしね)
次はB群から。
これもマユタテくんかな?
このようにマユタテアカネは斑紋のパターンが2種類あります。
次はおなじみの。
夏ときたら、
この2種類も似てますよね。
(ナツアカネは夏の内に赤くなり、アキアカネは秋に赤くなります)
これは赤くなりかけたアキアカネ。
ところで、扉の写真は、B群に属する、マイコアカネでした。(再掲します)
舞妓はんのように顔が青白くなるからだそうですが、オスだけなんですね、白くなるのは・・むむむ。
これは以前、ヒメアカネとして記載していた個体ですが、ひょっとしたらマイコアカネのメスかもしれません。
さてさて、では赤トンボはどうして赤くなるのか。
特にオスは成熟するにつれ、まさに果実が熟して色づくがごとく、赤や朱色や橙色になります。
これについて、日本薬学会が発行している業界誌に画期的なレポートが掲載されていました。
赤トンボが赤くなるメカニズムは、ほとんどの昆虫が持つ”オモクローム”という色素が還元反応をすることでおきるのだそうです。
(オモクローム色素は可逆的な酸化還元反応をし、還元反応で赤や橙色に、酸化反応で黄色になる)
体色が変わる動物はたくさんいますが、そのメカニズムは次の3通りだと考えられていました。
1. 新たな色素の合成や分解
2. 体内における色素の偏在化
3. 捕食したものからの取り込み
ところが、赤トンボはこれらのいずれでもなく、皮膚の色素の還元反応によるものだったのです。
以下に同レポートの結びの部分を引用します。
「アカトンボの成熟オスには強い抗酸化能が見られたことから、還元型の赤色色素には、日向で縄張りを作る際に、紫外線によって発生する活性酸素の影響を緩和する役割があるのかもしれない。」
これを読むと色々と合点がいくことがあります。
そのひとつは、アキアカネが秋にならないと赤くならないこと。
アキアカネは暑い夏の間は涼しい高原などへ避暑にいき、涼しい秋になると降りてきて赤くなるということ。
(例外なく避暑行動をするわけではないそうですが)
もうひとつは、このレポートにも書かれているのですが、赤トンボはかつて薬の材料として用いられていたこと。
”赤卒”という薬で、扁桃腺炎や百日咳、咽頭の腫れなど、主に口中の疾患に効くとされていたようです。
逆にナゾが深まることもあります。
それは、同じ色素を持つにもかかわらず、なぜメスは赤くならないものが多いのか。
このことにはレポートの中でも触れられていて、
「成熟オスだけが色素のほぼ100%が還元型になる理由は、現時点では不明」
とのことです。
この前はハンミョウの体の色について”色々”調べてみましたが、明快な答えは見つかりませんでした。
今回は、赤トンボについてのレポートを紹介してくださった方のおかげで、その色の変化のメカニズムを知ることができましたが、ナゾもまたひとつ増えました。
昆虫に限らず、生物の生態や体の機能についてニンゲンの知っていることはほんの上っ面のことだけです。
いや、上っ面である体表の色のことでさえナゾだらけなんですから、何にも知らないといった方がいいのかもしれませんね。
追記
赤トンボの赤い色素を酸化剤で処理すると黄色になり、さらに還元剤(ビタミンC)を加えると赤色に戻ることから、変色は酸化還元反応によることが判明したのですが、これは即ち、赤くなった赤トンボのオスの皮膚には、ビタミンC還元型の 抗酸化物質がたくさん含まれているということだそうです。
(参考文献)
「漢方薬にもなっていたアカトンボの赤色の正体」 二橋 亮 著 (ファルマシア 2014年11月号)
「赤とんぼの謎」 新井 裕 著
赤トンボ記事の取材のため、時間のある限りあちこち撮影にいきましたが、今年は赤トンボの多様性が少ない気がしました。
(本文にたったこれだけの種類しか紹介できないイイワケということではなく)
鹿児島県ではアキアカネがレッドリストに載ったというウワサも。 (回復してほしいです)
せめてウスバキトンボは載せたいなと思っていたのですが、それも叶いませんでした。
それにしても赤トンボの同定はやはり、採集または捕獲して観察しないとなかなか厳しい。
(観察眼をもっと進化させなければならないということもありますが)
この子もたった一枚しか撮れなかったので、誰だかわかりません。。
ナツアカネかな?
しかしいろんな意味でキケンな場所にとまっていますね。。
今日の湯加減
冬になる前にはアップしたいと思っていながら、なかなか書けずにいたこの記事。
2年前の記事を下書きにして書いてみます。
このトンボの見当が付く方にはあまり参考にならないかもしれませんが、マイメモとして。。
さあ、まずは赤トンボのおさらいをしましょう。
”赤トンボ”とは、狭義には、トンボ科のアカネ属(アカネ亜科またはアカトンボ亜科とも)のことをいいます。
ところが、アカネ属には赤くならない種類(ムツアカネやナニワトンボなど)がいますので、広義には、赤色や橙色の体色をしたトンボを指すようですが、そうすると、アカネ属ではない、ハッチョウトンボやベニイトトンボなどが含まれることになります。
ややこしいので、ここでは、赤トンボ=アカネ属のトンボということにしています。
アカネ属には次のようなトンボが分類されています。 (国外から飛来するものを除く)
(A群)
ノシメトンボ
コノシメトンボ
リスアカネ
ヒメリスアカネ
ミヤマアカネ
マユタテアカネ ※
(B群)
ナツアカネ
アキアカネ
マユタテアカネ ※
ヒメアカネ
マイコアカネ
ムツアカネ
ネキトンボ
ナニワトンボ
マダラナニワトンボ
タイリクアカネ
エゾアカネ
キトンボ
オオキトンボ
こうして一覧にしてみるとわかりますが、実は ”アカトンボ” というトンボはいないんです。
上のA群とB群は仮の分類です。(※ マユタテアカネは両方に属しますがその理由は後述)
A群は翅の先に斑紋がある仲間、B群は斑紋がない仲間です。
まず、A群の代表選手。もうおなじみですね。
ノシメトンボ
斑紋が何かわかったでしょうか? いわゆる”ツマグロ”のような、翅先の濃い茶色の模様のことです。
ではもう一種類。
マユタテアカネ
ノシメにもありますが、”眉立て”というように顔(複眼の下)に平安貴族のような丸い眉があります。
(目の下に眉というのも変ですけど、ブタ鼻というとかわいそうだしね)
次はB群から。
マユタテアカネ
これもマユタテくんかな?
このようにマユタテアカネは斑紋のパターンが2種類あります。
次はおなじみの。
ナツアカネ
夏ときたら、
アキアカネ
この2種類も似てますよね。
(ナツアカネは夏の内に赤くなり、アキアカネは秋に赤くなります)
これは赤くなりかけたアキアカネ。
ところで、扉の写真は、B群に属する、マイコアカネでした。(再掲します)
マイコアカネ ♂ (トンボ科)
舞妓はんのように顔が青白くなるからだそうですが、オスだけなんですね、白くなるのは・・むむむ。
これは以前、ヒメアカネとして記載していた個体ですが、ひょっとしたらマイコアカネのメスかもしれません。
マイコアカネ ♀ (トンボ科)
さてさて、では赤トンボはどうして赤くなるのか。
特にオスは成熟するにつれ、まさに果実が熟して色づくがごとく、赤や朱色や橙色になります。
これについて、日本薬学会が発行している業界誌に画期的なレポートが掲載されていました。
赤トンボが赤くなるメカニズムは、ほとんどの昆虫が持つ”オモクローム”という色素が還元反応をすることでおきるのだそうです。
(オモクローム色素は可逆的な酸化還元反応をし、還元反応で赤や橙色に、酸化反応で黄色になる)
体色が変わる動物はたくさんいますが、そのメカニズムは次の3通りだと考えられていました。
1. 新たな色素の合成や分解
2. 体内における色素の偏在化
3. 捕食したものからの取り込み
ところが、赤トンボはこれらのいずれでもなく、皮膚の色素の還元反応によるものだったのです。
以下に同レポートの結びの部分を引用します。
「アカトンボの成熟オスには強い抗酸化能が見られたことから、還元型の赤色色素には、日向で縄張りを作る際に、紫外線によって発生する活性酸素の影響を緩和する役割があるのかもしれない。」
これを読むと色々と合点がいくことがあります。
そのひとつは、アキアカネが秋にならないと赤くならないこと。
アキアカネは暑い夏の間は涼しい高原などへ避暑にいき、涼しい秋になると降りてきて赤くなるということ。
(例外なく避暑行動をするわけではないそうですが)
もうひとつは、このレポートにも書かれているのですが、赤トンボはかつて薬の材料として用いられていたこと。
”赤卒”という薬で、扁桃腺炎や百日咳、咽頭の腫れなど、主に口中の疾患に効くとされていたようです。
逆にナゾが深まることもあります。
それは、同じ色素を持つにもかかわらず、なぜメスは赤くならないものが多いのか。
このことにはレポートの中でも触れられていて、
「成熟オスだけが色素のほぼ100%が還元型になる理由は、現時点では不明」
とのことです。
この前はハンミョウの体の色について”色々”調べてみましたが、明快な答えは見つかりませんでした。
今回は、赤トンボについてのレポートを紹介してくださった方のおかげで、その色の変化のメカニズムを知ることができましたが、ナゾもまたひとつ増えました。
昆虫に限らず、生物の生態や体の機能についてニンゲンの知っていることはほんの上っ面のことだけです。
いや、上っ面である体表の色のことでさえナゾだらけなんですから、何にも知らないといった方がいいのかもしれませんね。
追記
赤トンボの赤い色素を酸化剤で処理すると黄色になり、さらに還元剤(ビタミンC)を加えると赤色に戻ることから、変色は酸化還元反応によることが判明したのですが、これは即ち、赤くなった赤トンボのオスの皮膚には、ビタミンC還元型の 抗酸化物質がたくさん含まれているということだそうです。
(参考文献)
「漢方薬にもなっていたアカトンボの赤色の正体」 二橋 亮 著 (ファルマシア 2014年11月号)
「赤とんぼの謎」 新井 裕 著
オマケ
赤トンボ記事の取材のため、時間のある限りあちこち撮影にいきましたが、今年は赤トンボの多様性が少ない気がしました。
(本文にたったこれだけの種類しか紹介できないイイワケということではなく)
鹿児島県ではアキアカネがレッドリストに載ったというウワサも。 (回復してほしいです)
せめてウスバキトンボは載せたいなと思っていたのですが、それも叶いませんでした。
それにしても赤トンボの同定はやはり、採集または捕獲して観察しないとなかなか厳しい。
(観察眼をもっと進化させなければならないということもありますが)
この子もたった一枚しか撮れなかったので、誰だかわかりません。。
未同定 ♂ (トンボ科)
ナツアカネかな?
しかしいろんな意味でキケンな場所にとまっていますね。。
今日の湯加減
長野で大きな地震がありました。
前記事のスコットカメムシを撮ったお寺は善光寺の裏手、とても急な坂の上にあったので心配です。
無事を祈って、その往生寺で撮った写真を何枚か載せておきます。
赤トンボに負けないほどみごとに染まっていました。
"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。
赤とんぼも紅葉の色づきも自然の節理。
その節理を解明して理解することはできなくても
美しいと愛でることができる感性があって幸せだなと思います。
by shino* (2014-11-23 19:53)
>shino*さん
そのとおりですね。
それを知っている者はそれを好きな者に如かず、
それを好きな者もそれを楽しむ者に如かず
と言いますものね。(論語だっけ・・^^;)
by ぜふ (2014-11-23 20:05)
お早うございます。
トンボ アカネ属の分類で種類の多さににビックリ(@_@;)しました。
分析能力がないのでこれからは「トンボ」一本槍でいきますσ(^◇^;)
長野の地震には驚きました。初めの発表以上に大きかったようですね。
by yakko (2014-11-24 08:29)
赤とんぼはアキアカネしかいないと思ってました(^^ゞ
地震列島、やはり備えをしておかないとと再認識しました。
by ぐす (2014-11-24 08:37)
おはようございます^^
地球のことも地球上のこともわからないことだらけですよね。
マイコアカネは何となくそうかなーって思いましたよ(冒頭の写真で)
鼻(?)のお色が特徴があるとわたくしが思っているものですから^^
by mimimomo (2014-11-24 08:46)
赤とんぼ、奥が深すぎます・・・
未同定の赤とんぼ、無事だったんだろうか・・・
最後の紅葉、見事ですね。
by g_g (2014-11-24 10:15)
niceは、入っていました。
by Silvermac (2014-11-24 13:53)
トンボの世界は本当に奥深いですよね(>_<)
by sasasa (2014-11-24 18:17)
今年はほとんど赤トンボを見なかった気がしますʕ*̫͡*ʔ
夏から急に涼しくなったからかな。
京都の紅葉もイマイチのとこが多い気がします。
by barbie (2014-11-24 22:27)
昆虫の色は本当に不思議です。
そして、鳥も植物も美しいのが沢山居ますね。
なんて素敵なことでしょう。
by アヨアン・イゴカー (2014-11-24 23:20)
トンボの写真が来たー!*と嬉しくなりました。^^
ぜふさんは本当に昆虫と仲良し。*
写真からそう伝わります。
色々な線や色、とても素敵だし、とても不思議です。
by SaraTriennale (2014-11-24 23:42)
>yakkoさん
それでもいいと思いますよ。
トンボ、ヤンマ、イトトンボ、カワトンボと呼び分けるだけでも^^
>ぐすさん
アキアカネは数が減っているそうです。 レッドリスト地域まで><
糸魚川静岡構造線は日本海へも繋がっているそうですね・・
>mimimomoさん
さすがです。
マイコアカネはやや希少ですので見つけるとうれしいです^^
>g_gさん
分かっていることの方が少ないですね。
でもこのレポートは納得の内容でした。
境内に一本だけあったモミジが燃えたつような色でした。
>bはん
今年はこちらでもトンボが少なかったですね。来年は回復してほしい・・
房総の紅葉は今年いい感じです♪ 昨日ちょっと見てきました^^
>アヨアン・イゴカーさん
きれいな色をしていてさらに翅まであって飛べるんですからね^^
しかもニンゲンに害がない、どころか薬になるとは・・
>さらさん
やっとアップしました^^;
もっとうまく撮ってくれと思われているかもですが、虫にも表情があると思います。
いずれにしても虫には嫌われないようにしたいです^^
by ぜふ (2014-11-25 07:05)
熟読、でも難しい
赤とんぼ、一様に名づけてもこんなにも種別があるなんて
昆虫は深いですね、
秋に赤くなるのは、自然のなせる技
自然は素晴らしく有り、また怖くも有りですね
by engrid (2014-11-25 18:16)
皆様と同じく たくさんの種別にびっくりです!
秋に赤くなるのは 葉っぱだけじゃないんですね
この前食べたツマミ 雪なんとかっていうんです
梅肉とコリコリした魚のなんかを
混ぜたものでした
覚えられませんです…
by ねこじたん (2014-11-26 11:39)
神奈川県立生命の星地球博物館が2012年にトンボの特別展が開催されました。その展示解説書に世界のトンボ生息状況が地域別に書かれていました。世界でも同じように危ない状況のようです。
今年は舞妓はんを見つけることができなかったので、うらやましいかぎりです。本物の舞妓はんでも見に行こうかな。
by アサギいろ (2014-11-26 21:04)
>engridさん
前記事のセンチコガネのように、多種にみえて1種類の虫とは正反対ですね^^
ニンゲンには到底真似できない能力も持ってるし、虫はえらくもあります♪
>ねこじたんさん
今回は紹介しませんでしたが、黒くなる”赤トンボ”もいるんですよ^^
>アサギいろさん
もっともっと多種類の写真を紹介したかったのですが・・心配ですね。。
本物の舞妓はんにも会いたい^^
by ぜふ (2014-11-27 06:55)
子供の頃からずーっと、アカトンボ、アカトンボと言っていますが...
そういう名前のトンボはいないんですね^^;。
体色の変わる理由として、「捕食したものからの取り込み」というのが
なんだか面白い^^;。
by sakamono (2014-11-28 23:16)
>sakamonoさん
この子たち、みんな、”アカトンボ”でもいいと思います^^
たしか、養殖の鯛は赤いエビを食べさせて色をよくしますよね。
by ぜふ (2014-11-29 16:46)