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"Wessay"とはWeb Essayを約めたオリジナルの造語です。

甲州信州の旅 後編 [探虫行]

中編の続き

後ろ髪を引かれながら(肩の汗をコミスジに吸われながら)、蝶の谷を後にし、もうひとつの目的に向け出発しました。

雨模様のR158(野麦街道)をひた走り、梓湖に着いた頃には、とうとう降りはじめました。

蝶の谷でも天気雨が降ったし、少々のことなら強行しよう、きっとイイコトがある。

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(イイコトの予告)



しかし、トンネルをひとつ抜けるたびに雨は強くなっていきました。

標高が高くなることを見越してインナーウェアを一枚追加して着ていましたが、それでも冷たさがじわじわと。

このまま身体が冷え切ると探虫どころではありません。

「またおいで」と天の声がしたような気がしたので、潔くUターンしました。 (決断は早く)

まだ雨が降っていないところまで戻り、作戦タイムと暖を取るために、ドライブインにピットイン。

その駐車場の自動販売機で待っていたのが扉の写真の(もうご存知)スミナガシ。

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スミナガシ (タテハチョウ科)


小粋な和装の子ですが、こんなポップな背景だとさらにそれが際立って見えました。

よほど吸水したかったのでしょうか、指で触れるほどの距離に近づいても逃げないどころか、頑として動かない。

そんなに飲みたいならジュースくらいおごってあげるよとお金を入れてあげたのに、ガチャンという振動におどろいて飛び去ってしまいました。

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暖かいとろろ蕎麦を食べながら地図とにらめっこし、新しい目的地を決定しました。松本方面へ引き返します。

新島々を通過し、山形村方面へ「日本アルプスサラダ街道」という道を進みました。その途中から山の中へ。

ところが、やっとたどり着いたと思ったら入山禁止!

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ふと見ると管理事務所らしき建物の前に人がいたので、ダメ元で聞いてみました。

そしたらなんと、「歩いて入るならいいですよ」

釣りや山菜採りではないことが身なりでわかったからだと思いますが、鷹揚な方でよかった。

林道に足を踏み入れ、歩くこと数分。 沢にかかる橋の上に何やら黒い影が。

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いきなりの遭遇に思わず体がのけぞりました。(頭上に!マークが5つくらい付いていたと思います)

絶対にシゲキしてはならないぞと、息を殺して忍び寄りましたが、それはまさしく・・

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ミヤマカラスアゲハ の集団吸水 (アゲハチョウ科)


実は蝶の谷でもミヤマカラスの吸水グループに出くわしていたのです。

が、前記事で紹介できなかったように、興奮して殺気を発していたのでしょう、散らかしてしまったのでした。

同じ失敗はしてはならぬ。たぶんこの旅でこれが最後のチャンスだろうと思うと、緊張度は最高潮。

果たして・・

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翅の色を写すには理想のアングルで撮ることができました。

ずっとこの子たちを観察してようかとも思いましたが、欲深い虫屋は彼らに一旦別れを告げて先に進みました。

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さらに歩くこと数分。

のけぞり方はやや小さかったものの、渓流側の護岸の上に・・

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この子たちは吸水ではありません。 お食事中なんです。

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コムラサキ (タテハチョウ科)


よく見るとコムラサキに挟まれて何かいますね。

コムラサキたちを散らかすことを覚悟で近寄って接写しました。

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ヒロオビモンシデムシ (シデムシ科)


触角の先がポンポンみたいに丸く膨らんでいているシデムシで、それがチャームポイントになっていますね。

そのチアポンポンを撮っていると、別の子が舞い降りてきました。

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キバネセセリ (セセリチョウ科)


実はこのセセリ、ペプシのスミナガシを撮っているときも見かけたのですが、撮り損ねていたのでした。

写真ではわかりづらいですが、よく見るイチモンジセセリの1.5倍はある大きな子。

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このあとさらに先に進みましたが、雨が降り出したこともあり、昆虫はほとんど姿を見せてくれませんでした。

めぼしかったのはこの子くらい。

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オオオバボタル (ホタル科)


吸水グループのいたところまで戻ると、雨の中、まだ居残っている子がいました。

ちょっと時間をかけてお別れの挨拶を。

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翅を全開にして挨拶をしてくれる、入り口にいた人と同じ、鷹揚な子でした。

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ミヤマカラスアゲハ (アゲハチョウ科)


上高地には行けなかったものの、いや行けなかったことで、この子たちに会えたのだと思います。


というわけで、再び雨から逃げ去る格好で、ベースキャンプの上諏訪の宿へ戻りました。

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翌朝は早起きしたものの、あわてて出発する気がなくなるほど外は本降りの雨でした。

それならと、朝風呂に入りながら一人作戦会議。

予定では杖突街道経由で入笠山の北西側から林道に入り、山頂に向かうつもりでした。

しかし、この雨でダートを走るのは辛いし、そもそも探虫どころではない。

とはいえ、この日は最終日。 東京方面へ進路をとる必要があるので、それほど選択肢はない。

単に甲州街道を戻るのは論外なので、雨でも走りやすい八ヶ岳方面に向かうことにしました。

茅野からR299、雨の「メルヘン街道」をひた走りましたが、この道を行くときはどういうわけかその名前に反して過酷な行程になることが多い。

今回は寒さに震えるというほどではありませんでしたが、いつぞやはまだ9月というのに、奥歯をガチガチと言わせながら「何がメルヘンじゃ~」と叫びつつこの峠を越えたことが思い出されました。

やはり2000メートルという標高を侮ってはいけないということですね。

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麦草峠


この峠の近くにあるのが白駒の池。

駐車場に入ろうとすると、係りの人が、こんな雨の中ほんとに寄ってくの?という表情で料金を徴収に来ました。

寄って行きますよ、そのためにこのルートを選んだんですから、とは言わずに100円払って駐車。

傘の代わりにヘルメットをかぶったまま池に向かいました。

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こんな雨の中、誰もいないと思いきや、学生のグループと引率者を伴う子供のグループとすれ違いました。

それでもやはり、池についてみるとまったく人の気配はありませんでした。

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小屋の屋根からは雨水が盛大に流れ落ちていましたが、雨は強まったり弱まったりを繰り返していて、
風はほとんどないので濡れそぼっていてもまったく不快ではありませんでした。

ここから池を時計回りに周回しました。 そう、できればルリイトトンボに会いたくて。

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苔むす森が池の畔まで自然のままに広がっていて、遊歩道はなく、つぎはぎの木道を辿って巡ります。

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お目当ての子たちはきっと、雨宿りのためにもののけの森の奥へ潜んでしまっているのでしょう。
一周するも、結局は出会えずでした。

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駐車場まで引き返し、有料トイレで用を足したとき、窓枠に高原のオミヤゲを見つけました。

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シラフヒゲナガカミキリ (カミキリムシ科)


ゴマダラカミキリに似ていますが、これは高山性のカミキリムシでハナムグリのような柄をしています。

さあ、山を下ります。

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メルヘン街道を離れ、K480で海尻まで一気に下ると、雨は上がりましたが、R141は濃霧街道となっていました。

おかげで野辺山や清里付近の景色を楽しむことはできませんでしたが、長坂まで下りきると晴れ間が広がった。

2日前に出発した穴山を通り過ぎ、新ポイントの開拓をしてみましたが、不発。

変更後の予定では荒倉山方面へ行ってみるつもりでしたが、あまりの下界の暑さに更に計画変更。

もう一度、茅ヶ岳に向かってみることにしました。

あてどもなくさまよっていると、クヌギ林のアプローチが目に留まったので緊急停車。 突入です。

数十メートル入ると用水路が現れ、その脇の葉の上に森の門番がいました。

この子が幸運の女神、水先案内人だったのです。(その理由は後ほど)

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ミヤマカワトンボ ♀ (カワトンボ科)


この子がいなかったらここで引き返していたと思います。

この子が向いている方向、森の奥に何かまたイイコトがあるような気がしたのです。

用水路はどこまでも続いているように思われるほどでしたが、何かに呼び寄せられているように歩が進みました。

途中でちょっとおもしろい子にも出会えました。

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スジクワガタ ♂ (クワガタムシ科)


しかしこの子はスジクワガタの特徴の鞘翅のスジが目立たない。というか肉眼では見えないほど。

スジナシスジクワガタと呼びたいくらいです。

さらにこんなペアにも会えました。

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キボシカミキリ ペア (カミキリムシ科)


そして、用水路の終点までたどり着いたとき、そこに見た光景はたしかに見覚えがありました。

去年の採集会のあと、スタッフだけで訪れた林に違いありませんでした。

ということはあの方向にそのとき見つけた樹液の出ているクヌギがあると確信して林の中を進みました。

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果たしてそこには根本辺りから樹液を出すクヌギがありました。

そして間もなく、鳥の羽ばたくような風切音がしたかと思うと、この子がその樹液に舞い降りました。

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オオムラサキ ♀ (タテハチョウ科)


去年はここでオスを撮影したので2年越しのペア撮影となりました。

これももちろん幸運だったのですが、さらに思ってもみなかったことが起こりました。

この木の近くのクヌギをふと蹴っ飛ばしたくなったのです。
(クヌギを見ると蹴飛ばしたくなるのは虫屋の習性ですが)

ガン、ガンとキックすると、ボタボタッと梢から黒い物体が落ちてきました。

近くに落ちた方を確認すると、なんとミヤマクワガタのメスでした。 (この時点ですでに有頂天)

そして、もうひとつの方は・・

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ミヤマクワガタ ♂ (クワガタムシ科)


撮影のために木の幹につかまってもらいましたが、ひとりぼっち森の中にいることをいいことに、

「やったー!」と思わず童心に還ってしまいました。 (探虫していること自体が童心とも言えますが)

せっかくなのでオヤクソクのアングルで。

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73ミリのキングサイズ


というわけで、ミヤマカワトンボが水先案内人となってミヤマクワガタのペアに出会えたのでした。

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長々と書いてきましたがこれで今回の探虫旅行記は終わりです。

霧ヶ峰での収穫は少なかったのですが、そこで見かけたルリイトトンボが旅の行方を占っていた気がしますし、
いきなり本命のひとつのスミナガシに出迎えてもらったり、期待していたミヤマカラスアゲハの吸水グループに出会えたり、
最後はある意味、”虫の知らせ”に導かれるような出会い。

少し虫運を使いすぎたような気がします。




オマケ


実はミヤマクワガタは飼育したことがなかったので、お連れすることにしました。

しかし、お連れするとなると、車とは違い、道中の温度や振動・衝撃に注意が必要になります。

容器の中にとびっきり柔らかい落ち葉を詰め込んで緩衝材にし、用水路の水をくんで湿度を持たせました。

そして一目散に、お昼は食べず、いつもは使わない首都高まで使って直帰。

無事にお連れすることができました。

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仮住まいのケースに入れたミヤマクワガタ ペア


今日現在も元気にしてくれています。




今日の湯加減

前記事でも酷暑のことを書いて、また書くとムシブロの温度が上がってヒンシュクをかいそうですが、
あの連日の暑さで我が家の虫ファミリーもダメージをうけました。
オサムシ、マイマイカブリ、ゴミムシ、タイコウチなどがそれこそ相次いで動かなくなりました。
そして一番ショックだったのは、サンショウウオのランちゃんマンちゃんが☆になってしまったこと。
前日まではちょっと元気がないながらもエサを食べていたのに・・・目利きが足りなかったようで反省。。
(イモリのミユキちゃんは元気です)
さて、明日はスカイツリータウンで開催中の大昆虫展のイベントで先生とカブトムシゆかりさんのトークショウがあります。
去年に引き続き今回も、お付きで同行させていただく予定です。
お時間ある方はぜひ。(14:00からです)


虫屋さんの百人一種




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コメント 14

mimimomo

こんにちは^^
収穫の多い旅でしたね。
殺気を殺すのが上手?^^ わたくしはそのつもりでもすぐ逃げられてしまいます。
by mimimomo (2015-08-15 17:38) 

masao。

白駒の池紅葉シーズンしか行ったことがありませんがいい所ですよね。
苔も最高です。
キバネセセリ最近逢えてないけどぷっくらしたお腹が可愛いです。
スジクワもミヤマもカッコいいですね。
by masao。 (2015-08-15 18:11) 

g_g

扉の写真綺麗なので釘付けになりました。
それにしても今回の感は素晴らしかったのでは・・・
by g_g (2015-08-16 08:15) 

ねこじたん

ミヤマカラスちゃんの 女子会ですね〜
チャーしながら なに話してるんだろうな
by ねこじたん (2015-08-16 10:13) 

shino*

虫の神が降りたのでしょうか
ドキドキが伝わってきました
ミヤマカラス美しいですね~
白駒の池は大昔に行ったことがあるのですが
また行ってみたい場所のひとつです
夏休み取って八ヶ岳に行きたくなりました^^
by shino* (2015-08-16 10:58) 

アサギいろ

深山でミヤマカラスアゲハとミヤマクワガタとミヤマカワトンボ。ミヤマのつくものはみんな美しいものたちばかりです。私もハートカメムシ号(50ccだけど)でも買って出かけたいと思うのであります。
by アサギいろ (2015-08-16 21:50) 

ぜふ

>mimimomoさん
予想以上の収穫でした^^
まだまだ修行中なので失敗ばかりです^^;

>masao。さん
苔と紅葉の取り合わせも見てみたいですね。
キバネセセリはぽっちゃりですが飛ぶのは速いですよね^^

>g_gさん
コムラサキは見る角度で翅の色が変わるのでアングルむずかしいです。
とにかく今回の旅は盛りだくさんでした^^

>ねこじたんさん
実は・・・この子たち・・・男子なんです^^;
ホーイズトークですね♪

>shino*さん
降臨してましたね^^
その代わり八ヶ岳は雨でしたが・・・
ルリイトトンボ見つけてきてください^^

>アサギいろさん
チョウ、甲虫、トンボと三役そろい踏みでした^^
ハートカメムシとは・・モンキツノカメですか?
by ぜふ (2015-08-16 23:54) 

アヨアン・イゴカー

ミヤマカラスアゲハ、美しく写真が撮れてますね。この方々、日本の蝶の中では、かなり見事な部類に属すると思います。
虫の知らせたぁ、縁起が好いわい。素晴らしい収穫、よかったですね。

それにしても、暑さで幾つかの生き物が影響を受けている、そういうことがあるのですね。天候の変化には結構強いものかと思っていましたが。サンショウウオ君たち、残念でしたね。
by アヨアン・イゴカー (2015-08-17 00:05) 

ぜふ

>アヨアン・イゴカーさん
オミゴトな美しさです♪
やはり虫運を使いすぎてしまったようです。 少しおとなしくしてようかな・・
by ぜふ (2015-08-17 07:17) 

sasasa

スミナガシさん、どうしてもここで給水したかったんでしょうね(^_^;)
ミヤマカラスアゲハは本当に美しいですね!
by sasasa (2015-08-17 14:27) 

engrid

ご一緒に、奥へ奥へと
昆虫の迷宮に進んでいった気持ちです
ミヤマカラスアゲハの美しさにため息、
ミヤマカワトンボの上品さ
クワガタの勇壮な姿、、、飼育中の様子もお知らせくださいね
by engrid (2015-08-17 18:40) 

ぜふ

>さささん
ジュースを買いに来たんでしょうね^^

>engridさん
ミヤマ三役そろい踏み?でした^^
実はミヤマクワガタの♂はお盆明けに合わせたように☆になってしまいました・・

by ぜふ (2015-08-20 22:08) 

barbie

和服モダンなスミナガシも鮮やかなミヤマカラスアゲハもNICEです。

by barbie (2015-08-26 21:37) 

kazz

大収穫ですね!
チョウももちろん良いですが、やっぱり私も男の子(元)、
ミヤマクワガタにドキューンされました(^^)
いや〜〜カッコイイ!
by kazz (2015-08-26 22:44) 

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